2018年12月に厚生省から「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」と「医薬分業に関する取りまとめ」が公表された。医薬品医療機器制度部会において計10回に及ぶ会議の元にまとめられたものである。その中でも薬局に関連する「医薬分業に関する取りまとめ」の要点と全文を以下に記載する。

要点
薬剤師の役割と分業意義

  • 患者の服薬情報を一元的・継続的に把握
  • 複数医療機関受診による重複投薬、相互作用の有無の確認
  • 処方箋のうち約 2.8%について疑義照会が行われ、応需処方箋の約1.0%が処方変更につながっている
  • 処方した医師・歯科医師と連携して患者に服薬指導
  • 平成27 年に患者本位の医薬分業の実現に向けて「患者のための薬局ビジョン」を策定し、かかりつけ薬剤師・薬局を推進して、薬剤師の業務を対物業務から対人業務を中心とした業務へシフトさせ、薬剤師がその専門性を発揮
  • 医薬分業により、医療機関では医師が自由に処方できることや医薬品の在庫負担がないことに加え、複数の医療機関を受診している患者について重複投薬・相互作用や残薬の確認をすることで、患者の安全につながっている

 一方で

  • 患者にとってのメリットが感じられないとの指摘
  • 公的医療保険財源や患者の負担に見合ったものになっていないとの指摘
  • 処方箋受取率7割、薬局数は59,000件超え
  • 費用面では、調剤技術料は調剤報酬改定での引上げもあり、直近で1.8 兆円
  • 政策誘導をした結果の形式的な分業であって多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていないという指摘
  • 単純に薬剤の調製などの対物中心の業務を行うだけで業が成り立っており、多くの薬剤師・薬局が患者や他の職種から意義を理解されていないという危機感がないという指摘
  • 薬剤師のあり方を見直せば医薬分業があるべき姿になるとは限らず、この際院内調剤の評価を見直し、院内処方へ一定の回帰を考えるべきであるという指摘

今後

  • 医師と薬剤師が密に連携し、他の職種や関係機関の協力を得ながら、患者の服薬状況等の情報を一元的・継続的に把握し、最適な薬学的管理やそれに基づく指導を実施することが重要
    ・今後、在宅医療の需要の増加が見込まれる中で、必要な患者に対して在宅で安全かつ効果的な薬物療法を提供する
    ・患者の同意を得た上で、他の職種や関係機関との間で疾患や検査値等に関する必 要な患者情報を共有する取組がさらに重要となる
    ・薬局薬剤師と医療機関の薬剤師が連携して、外来や入退院時に患者 情報等の共有を行いながら切れ目のない薬学的管理と患者支援を行う

1.医薬分業の現状

○ 医薬分業が目指すものは、医師が患者に処方箋を交付し、薬剤師がその処方箋に基づき調剤を行うことで、医師と薬剤師がそれぞれの専門性を発揮して業務を分担・連携すること等によって、患者に対して有効かつ安全な薬物療法の提供を行い、医療の質の向上を図ることである。具体的には、薬局の薬剤師が患者の服薬情報を一元的・継続的に把握した上で、薬学的管理・ 指導が行われることにより、複数医療機関受診による重複投薬、相互作用の有無の確認などが可能となる。また、薬局の薬剤師が、処方した医師・歯科医師と連携して患者に服薬指導することにより、患者の薬に対する理解が深まり、薬を適切に服用することが期待できる。

○ これまでのわが国における医薬分業は、こうした姿を目指して推進され、 厚生労働省の調査では、薬局において応需した処方箋のうち約 2.8%について疑義照会が行われ、応需処方箋の約1.0%が処方変更につながっていることが示されるなど、一定の役割を果たしてきた。その一方で近年、これまで長らく薬局においては概して調剤における薬剤の調製などの対物中心の業務が行われるにとどまり、薬剤師による薬学的管理・指導が十分に行われているとはいえず、そのような状況下での医薬分業については、患者にとってのメリットが感じられないとの指摘や、公的医療保険財源や患者の負担に見合ったものになっていないとの指摘がされるようになってきている。

○ 医薬分業の現状を見ると、1970 年代以降、診療報酬で処方箋料の引上げや薬価差解消等の措置がとられたこともあり、処方箋受取率は上昇を続け、 現在では処方箋受取率7割12、薬局数は5万9千13を超えている。費用面では、調剤技術料は調剤報酬改定での引上げもあって直近で1.8 兆円に達しており、収益を内部留保として積み上げている薬局もある。

○ このような中で、厚生労働省は、平成27 年に患者本位の医薬分業の実現に向けて「患者のための薬局ビジョン」を策定し、かかりつけ薬剤師・薬局 を推進して、薬剤師の業務を対物業務から対人業務を中心とした業務へシ フトさせ、薬剤師がその専門性を発揮するよう、医療保険制度等における対応も含めて施策を進めてきた。

○ しかしながら、その後も、医薬分業について厳しい指摘が続いているほか、薬局における法令遵守上の問題(医薬品の偽造品の調剤、調剤済み処方箋の不適切な取扱い等)も散見されている。

○ 今回、本部会では、薬剤師・薬局のあり方と併せて医薬分業のあり方に関して議論してきたが、医薬分業により、医療機関では医師が自由に処方できることや医薬品の在庫負担がないことに加え、複数の医療機関を受診している患者について重複投薬・相互作用や残薬の確認をすることで、患者の安全につながっているという指摘がある一方で、現在の医薬分業は、政策誘導をした結果の形式的な分業であって多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていないという指摘や、単純に薬剤の調製などの対物中心の業務を行うだけで業が成り立っており、多くの薬剤師・薬局が患者や他の職種から意義を理解されていないという危機感がないという指摘、さらには、薬剤師のあり方を見直せば医薬分業があるべき姿になるとは限らず、この際院内調剤の評価を見直し、院内処方へ一定の回帰を考えるべきであるという指摘があった。このことは関係者により重く受け止められるべきである。

2.今後の地域における薬物療法の提供に当たっての患者支援のあり方

○ 近年、少子高齢化がさらに進展し、我が国の各地域において、医療・介護・保健・福祉等に関わる関係機関等が連携して住民を支える地域包括ケアシ ステムの構築が進められている。このような中で、患者は、外来、在宅、入院、介護施設など複数の療養環境を移行することから、療養環境に関わらず、 医師と薬剤師が密に連携し、他の職種や関係機関の協力を得ながら、患者の服薬状況等の情報を一元的・継続的に把握し、最適な薬学的管理やそれに基づく指導を実施することが重要となっている。

○ 特に、今後、在宅医療の需要の増加が見込まれる中で、必要な患者に対して在宅で安全かつ効果的な薬物療法を提供することは大きな課題となって おり、これに薬剤師・薬局が関わるためには、「患者のための薬局ビジョン」でも指摘されているように、かかりつけ薬剤師・薬局の機能を果たすことが必要である。

○ また、がんの薬物療法に関して、経口薬が増加して外来で処方される機会 が多くなっているなど、専門性が高い薬学的管理が継続的に必要となる薬物療法が提供される機会が増加している。このような状況に適切に対応す るためには、臨床現場で専門性が高く、実践的な経験を有する医療機関の薬剤師が中心的な役割を果たしつつも、地域の実情に応じて、一定の資質を有する薬局の薬剤師が医療機関の薬剤師と連携しながら対応することが望ましいと考えられる。

○ これらの地域における医療のニーズの変化への対応については、医療機関の医師等が中心となって対応することが不可欠であるが、今後一層の高 齢化や人口減少が見込まれる中において地域包括ケアシステムの更なる進 展が求められることなどを踏まえると、薬剤師が、薬局で勤務する中で他の 職種や関係機関と連携しながらこれらの業務に関わっていくことには意義があると考えられる。

○ そのためには、薬剤師が他の職種からも患者からも信頼されるに足る資質を持つことが前提となるが、この点に関しては、今後の薬学教育の下で、 臨床において患者に接しながら薬学的な問題を発見し、それを解決できる ようにするための臨床に係る実践的な能力を有する薬剤師の養成がさらに 進められることを期待する。加えて、薬剤師の免許取得後も、地域で求めら れている役割が発揮できるよう、常に自己研鑽に努め、専門性を高めていくための取組が必要である。

○ さらに、薬剤師・薬局には、一般用医薬品等を提供する機能・相談機能を 通じて地域住民による主体的な健康維持・増進を支援するという機能(いわ ゆる「健康サポート機能」)がある。今後も引き続き、薬剤師・薬局がその ような面においても更に役割を果たしていくことが強く期待される。

○ また、薬剤師・薬局が患者の薬物療法により積極的に関わるに当たっては、 個人情報の厳正な保護措置などの体制が整っていることを前提に、患者の同意を得た上で、他の職種や関係機関との間で疾患や検査値等に関する必 要な患者情報を共有する取組がさらに重要となるとの指摘があった。

○ しかしながら、薬剤師・薬局が経済的な利益の追求や効率性にのみ目を奪 われ、このような機能を果たさず、調剤における薬剤の調製などの対物中心の業務にとどまる場合には、患者にとってメリットが感じられないものとなり、今後の患者に対する医薬分業の地域医療における意義は非常に小さくなると言わざるを得ない。

○ ここで、医療機関の薬剤師について述べると、医療機関の薬剤師は、入院 患者に対する薬学的管理・指導や薬物血中濃度の確認、医療安全に係る対応 等の業務を行う中で、チーム医療の一員として医師等と連携しながら患者に接している。

○ 本部会での議論では、現在の薬局薬剤師と比較して、医療機関の薬剤師は 医療への貢献度が他の職種から見てもわかりやすく、その役割等が見える 存在になっている一方で、医療機関の薬剤師業務が十分評価されておらず、 医療機関の薬剤師の総数が薬局の薬剤師に比較して増えていないとの指摘 があった。

○ 今後、薬局薬剤師と医療機関の薬剤師が連携して、外来や入退院時に患者 情報等の共有を行いながら切れ目のない薬学的管理と患者支援を行うこと が一層求められると考えられるが、そのためには、医療機関の薬剤師の役割 はさらに重要になってくる。

3.おわりに

○ 本部会では、今回、薬剤師・薬局のあり方と医薬分業のあり方に関して幅

広く議論してきたが、これには、薬剤師法や薬機法上の措置のほか、医療保 険制度や介護保険制度における報酬上の措置、医療法における医療計画上 の措置など関連制度が密接に関係する。そのため、それら関連制度の検討に 当たっては、今回の本部会での議論を踏まえることが期待される。

○ とりわけ、医療保険制度における対応においては、平成 28 年度改定以降 の調剤報酬改定において、患者本位の医薬分業となるよう、累次にわたる改 定で見直しを進めるとされたが、今回の制度部会での議論も十分踏まえ、患 者のための薬局ビジョンに掲げた医薬分業のあるべき姿に向けて、診療報 酬・調剤報酬において医療機関の薬剤師や薬局薬剤師を適切に評価することが期待される