問286−287 82歳女性。以前より意識清明であったが、記銘力の低下を指摘されていた。今回、トイレに行こうとして転倒し、大腿骨骨折のため整形外科に入院した。入院中に認知機能の低下、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害が現れたほか、PETにて後頭葉の血流低下を認め、アルツハイマー型以外の認知症が強く疑われ、ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠による治療が開始された。
問286(病態・薬物治療)
この患者の認知症の病態と症状に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 幻視が現れることが多い。
- 病理組織学的には、大脳にレビー小体が認められる。
- 記憶障害は周辺症状である。
- ニコチン性アセチルコリン受容体に対する自己抗体が存在する。
- 運動ニューロンが傷害され、全身の筋力低下が認められる。
問287(実務)
ドネペジル製剤の医薬品リスク管理計画書(RMP)の概要から、下記のような 「重要な特定されたリスク」が確認できた。これらの回避のために、薬剤師の対応 として適切なのはどれか。2つ選べ。
安全性検討事項
【重要な特定されたリスク】
徐脈、心ブロック、洞不全症候群、洞停止、QT延長、 心室頻拍(torsades de pointesを含む)、心室細動、失神、消化性潰瘍、十二指腸潰瘍穿孔、消化管出血 消化器症状(食欲減退、悪心、嘔吐、下痢等) パーキンソニズム 心筋梗塞、心不全 肝炎、肝機能障害、黄疸 脳性発作、脳出血、脳血管障害 悪性症候群 横紋筋融解症 呼吸困難 急性膵炎 急性腎不全 血小板減少
- 心機能のモニタリングの必要性を医師に伝える。
- 急性膵炎予防のため、カモスタットメシル酸塩錠の併用を医師に提案する。
- パーキンソニズムが悪化した場合、ドネペジル塩酸塩口腔内崩壊錠の増量を医師に提案する。
- 消化性潰瘍予防のため、ランソプラゾール口腔内崩壊錠の投与を医師に提案する。
- 血小板減少の早期発見のため、出血などに注意することを医療従事者間で情報共有する。
(引用 厚生労働省 第104回薬剤師国家試験問題及び解答(平成31年2月23日、2月24日実施)https://www.mhlw.go.jp/content/000491254.pdf)
回答
問286
ドネペジルの適応にはアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症があります。よって、本問の患者はレビー小体型認知症であると考えることができます。
- 〇 幻視はレビー小体型認知症の主な症状です。
- 〇
- × 記憶障害は中核症状です。認知症患者の症状は、中核症状と周辺症状(BPSD)に分けることができます。
中核症状: 大部分の認知症患者に発生する症状で、脳細胞の破壊によるものと考えられています。(例. 記憶障害(健忘、物忘れ)、見当識障害、失語など)
周辺症状: 中核症状から派生する症状。(例. 妄想、幻覚、徘徊など)
- × 重症筋無力症の記述です。
重症筋無力症は、アセチルコリン受容体に対する自己抗体のため、神経の刺激伝達系に障害が生じることによって筋力が低下する疾患です。自己抗体が発現する理由は現在もわかっていません。主な症状は眼瞼下垂や複視、四肢麻痺などがあり、治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬や副腎皮質ステロイドがあります。人口10万人あたり11.8人とまれな疾患です。
- × 筋委縮性側索硬化症(ALS)の記述です。ALSは、運動ニューロンが選択的および進行性に脱落し、運動ニューロンにのみ変性が起こる疾患です。主な症状は筋力低下や筋委縮で、治療薬はリルゾール(商品名:リルテック)、エダラボン(商品名:ラジカット)などがあげられます。唾液分泌が過多になることがあり、スコポラミン軟膏などを両耳介後部に塗布して、唾液分泌を抑えることもあります。呼吸苦にはモルヒネなども使用されます。
問287
- 〇 徐脈や心ブロックのリスクがあるため、モニタリングが必要です。徐脈とは心拍数が低下(60回/min以下)することです。
- × 急性膵炎に用いる主な薬物は、ガベキサート(商品名:エフオーワイ)、ナファモスタット(商品名:フサン)、ウリナスチン(商品名:ミラクリッド)です。又、慢性膵炎にはカモスタット(商品名:フオイパン)が主に用いられます。本問では急性膵炎の予防としてはカモスタットは使用されないため、誤りです。
- × パーキンソン病は脳内ドパミンの欠乏により相対的にアセチルコリンが優位になります。さらにドネペジルのコリンエステラーゼ阻害作用により脳内のアセチルコリンの濃度が上昇するため、ドパミンとアセチルコリンのバランスが崩れやすくなります。よって、アセチルコリンを増量するのは不適です。
- × ランソプラゾールはドネペジルの副作用予防に対する適応はありません。
- 〇
※当websiteの薬剤師国家試験問題解説は薬学生の教育を目的に掲載しております。
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