問260−263
58歳男性。高血圧症と脂質異常症の既往歴がある。1年前に頸動脈狭窄症を発症し、ステント留置術が施行された。今回、狭窄の状態を精査するために検査入院となった。病棟担当薬剤師が、患者に対して初回面談を行ったところ、「再発 が怖いので、お医者さんから出された薬は毎日欠かさず飲んでいます。ただ、3日前からみぞおち付近に軽い痛みを感じて、便も黒い色をしています。」との情報を得た。病棟担当薬剤師は、この状況を主治医に報告し、薬物を1種類追加することを提案した。
(入院時の持参薬の処方)
クロピドグレル錠75mg 1回1錠(1日1錠)
アスピリン腸溶錠100mg 1回1錠(1日1錠)
アムロジピン口腔内崩壊錠5mg 1回1錠(1日1錠)
ロサルタンK錠50mg 1回1錠(1日1錠)
アトルバスタチン錠10mg 1回1錠(1日1錠)1日1回 朝食後 28日分
問260(実務)
提案すべき薬物として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- ラベプラゾールナトリウム
- チクロピジン塩酸塩
- タンニン酸アルブミン
- ロキソプロフェンナトリウム水和物
- メピバカイン塩酸塩
問261(薬理)
前問で提案された薬物の作用機序はどれか。1つ選べ。
- 副交感神経節後線維の神経終末からのアセチルコリン遊離を抑制することで、胃の蠕動運動を抑える。
- ADP受容体遮断により血小板凝集を促進することで、出血を抑える。
- シクロオキシゲナーゼ阻害により炎症反応を抑制することで、痛みを抑える。
- H+,K +−ATPase阻害により胃酸分泌を抑制することで、消化性潰瘍の増悪を 抑える。
- Na+ チャネル阻害により知覚神経伝達を抑制することで、痛みを抑える。
問262(実務)
半年経過後、胃部不快感、嘔気を自覚するようになった。半年間、薬の服用に変更はない。胃の内視鏡検査を施行したところ、早期胃がんが発見されたため、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を実施することになった。ESDは大出血のリスクは小さいが、出血の頻度が高い処置である。主治医は患者の既往歴を考慮し、抗血栓薬は継続したいと考えている。そこで、周術期の抗血栓療法について薬剤師に相談があった。この患者の抗血栓薬の中止・継続・代替療法について適切なのはどれか。1つ選べ。ただし、ESD当日は休薬することとする。
- クロピドグレル錠とアスピリン腸溶錠はESD前日まで継続する。
- クロピドグレル錠は7日前から休薬し、アスピリン腸溶錠は継続する。
- アスピリン腸溶錠を7日前からダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセルに変更する。
- クロピドグレル錠を7日前からシロスタゾール錠に変更する。
- クロピドグレル錠とアスピリン腸溶錠を14日前からヘパリンナトリウム持続点滴に変更する。
問263(薬理) 前問の選択肢1~5に挙げた薬物の作用機序に関する記述のうち、正しいのはれか。2つ選べ。
- クロピドグレルの活性代謝物は、ADP P₂Y12 受容体を不可逆的に遮断する。
- シロスタゾールは、ホスホジエステラーゼⅤを選択的に阻害する。
- 低用量のアスピリンは、血管内皮細胞のシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)を 阻害しにくいため、プロスタグランジンI2(PGI2)の産生は抑制されない。
- ヘパリンは、内因性のトロンボモジュリンによる血液凝固因子の不活性化作用を促進する。
- ダビガトランは、第Xa因子に結合してその活性を阻害することで、プロトロンビンからトロンビンへの変換を抑制する。
(引用 厚生労働省 第104回薬剤師国家試験問題及び解答(平成31年2月23日、2月24日実施)https://www.mhlw.go.jp/content/000491254.pdf)
問260
1.〇 ラベプラゾールナトリウム(商品名:パリエット錠)は、H⁺,K⁺-ATPaseのSH基と結合し、プロトンポンプ(H⁺,K⁺-ATPase)の働きを阻害します。問題文より、患者さんは便も黒い色ことから上部消化管出血、アスピリン腸溶錠(商品名:バイアスピリン)の副作用である消化性潰瘍であると考えられるので、ラベプラゾールナトリウム(商品名:パリエット錠)が適切であると考えられます。
2.× チクロピジン(商品名:パナルジン)は血小板のADP受容体を遮断しcAMP濃度を上昇させて血小板凝集を抑制する作用を示します。
3.× タンニン酸アルブミンは、腸内でタンニン酸を遊離し、そのタンニン酸が収れん作用を示すことから止瀉作用を示します。
4.× ロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニン)は鎮痛作用を示します。副作用として消化管潰瘍があります。
5.× メピバカイン塩酸塩(商品名:カルボカイン)はアミド型の局所麻酔薬です。分子型で細胞膜を通過し細胞内でイオン型となり電位依存性ナトリウムチャネルを遮断します。血漿コリンエステラーゼによる分解を受けにくいのでアレルギー反応を起こしにくい。また、血管収縮作用もあるので、アドレナリンなどの血管収縮薬との併用は不要です。
問261
1.× ロペラミド(商品名:ロスポリア)の記述です。オピオイドμ受容体を刺激しAch遊離を抑制します。
2.× チクロピジン(商品名:パナルジン)の記述です。
3.× ロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニン)の記述です。
4.〇 ラベプラゾールナトリウム(商品名:パリエット錠)の記述です。
5.× メピバカイン塩酸塩(商品名:カルボカイン)の記述です。
問262
抗血小板薬や抗血栓薬は出血の危険度によって休薬期間が異なります。
今回行われる内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は出血高危険度の消化器内視鏡に分類されます。
1.× 出血高危険度の消化器内視鏡におけるアスピリン腸溶錠の休薬期間はなしでも可能ですが、クロピドグレル錠は5〜7日間の休薬が必要となります。
2.〇 抗血栓薬継続を希望し内視鏡を延期できない場合や、血栓塞栓のリスクが高い場合はアスピリン腸溶錠(商品名:バイアスピリン)又はシロスタゾール(商品名:プレタール)を単独投与します。
3.× ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル(商品名:プラザキサ)は2~4日前から休薬します。
4.× アスピリン腸溶錠(商品名:バイアスピリン)を服用しているので、シロスタゾール(商品名:プレタール)を併用する必要はない。
5.× 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)においては、ヘパリンナトリウム持続点滴に変更となることはない。大手術などではパリンナトリウム持続点滴に変更されることはある。さらに、ヘパリンナトリウム持続点滴に変更するのであれば、14日前からではなく、術前3日から5日前が通常である。
問263
1.〇
2.× シロスタゾール(商品名:プレタール)はPDEⅢ(ホスホジエステラーゼⅢ)を阻害し血小板凝集抑制をします。
3.〇
4.× ヘパリンナトリウムは、ATⅢ(アンチトロンビンⅢ)と複合体を形成し、トロンビンや第Ⅹa因子活性を阻害します。
5.× ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル(商品名:プラザキサ)は、トロンビン活性部位に結合し、抗凝固作用を示します。選択肢はリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)などの記述です。
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