問196−197
62歳女性。体重55kg。5年前に慢性心不全と診断され、リシノプリル錠とビソプロロールフマル酸塩錠による治療を受けてきた。最近、息苦しさや疲労感が強くなってきたため以下の処方が追加された。なお、患者の腎機能が低下していたため(血清クレアチニン値1.6mg/dL、eGFR26.2mL/min/1.73m²)、低用量で投与を開始することになった。
(処方)
ジゴキシン錠0.125mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 14日分
入院して7日後の朝に患者から採血し、測定したジゴキシンの血中濃度は 3.7ng/mLであった。診察した医師より、ジゴキシンの血中濃度が高いにもかかわらず患者にはジゴキシン中毒の症状が認められないので、その理由について薬剤師に問合せがあった。そこで、薬剤師は採血を行った臨床検査技師に以下の質問をした。
(ア)採血したのは、患者がジゴキシンを服用する前でしたか、後でしたか。
(イ)ジゴキシンの測定に用いた測定キットは何ですか。
(ウ)別法でジゴキシンの測定を行い、比較することはできますか。
問196(実務)
上記の薬剤師の質問により明らかにしたかったこととして適切なのはどれか。2つ選べ。
- ジゴキシンの副作用の有無
- ジゴキシンとリシノプリルとの相互作用の有無
- 血中濃度がトラフに近いかどうか
- 血中濃度が定常状態かどうか測定した濃度が真の血中濃度よりも高くなっている可能性
- 測定した濃度が真の血中濃度よりも高くなっている可能性
問197(物理・化学・生物)
前問の質問に対する回答から、今回用いた血中濃度測定法は、ジゴキシンに対するポリクローナル抗体を用いる蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)法であることが判明した。そこで、モノクローナル抗体を用いるenzyme multiplied immunoassay technique(EMIT)法によって再測定を依頼した結果、0.8ng/mLの値が得られた。免疫測定法に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- ポリクローナル抗体よりモノクローナル抗体を用いる方が、一般に交差反応性が大きい。
- FPIA法の代替測定法として、サンドイッチELISA法はジゴキシンの測定には適さない。
- FPIA法では、蛍光標識したジゴキシンが抗体と結合することにより、蛍光偏光解消度が高値となる。
- EMIT法では、抗原抗体複合体が酵素と結合すると酵素の活性が変化することを利用する。
- 免疫測定法の代替法として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いても、内因性ジゴキシン様物質の影響を除くことができない
(引用 厚生労働省 第104回薬剤師国家試験問題及び解答(平成31年2月23日、2月24日実施)https://www.mhlw.go.jp/content/000491254.pdf)
問196
- × 問題文より、副作用及び中毒症状はみられません。
- × 双方の薬物併用による相互作用は報告されていません。
- 〇 ジゴキシンは、服用後(経口の場合)、6~8時間後でないと心臓に分布せず、血中濃度と組織中濃度が平衡状態に達するまでに時間がかかります。よって、採血のタイミングはトラフ値(次回服用直前)が望ましいです。
- × 投与開始から7日経過しているため定常状態に達していると考えられます。
- 〇 腎機能低下者や肝機能低下者、新生児等ではジゴキシン様免疫反応陽性物質(DLIS)が認められることがあり、その場合は真のジゴキシン濃度よりも高値を示すことがあります。
問197
- × モノクローナル抗体とは1種類のB細胞に由来するクローンから得られた抗体のことです。一方ポリクローナル抗体とは複数のB細胞に由来するクローンから得られた抗体のことです。交差反応性とは、ある抗原に対する特異抗体が別の種類の抗原と反応することで、抗原特異性の高低を表します。よって、モノクローナル抗体はポリクローナル抗体に比べて交差反応性が低いです。
- 〇 ELISA法はタンパク質などの分子量の大きな抗原を検出する際に用います。
- × ジゴキシンと抗体が結合することで分子量が大きくなるため、回転運動は遅くなり、蛍光偏光解消度は低値を示します。
- × 酵素標識されている抗原が抗体と結合する際に、標識酵素の活性が変化することを利用しています。
- × HPLCを利用することにより、内因性ジゴキシン様物質を分離できるため、内因性ジゴキシン様物質の影響を除くことができます。
本問には正文が1文しかないため、解なしとなります。
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